前回からの続きで、 Miles Davis の Steamin' With the Miles Davis Quintet に収録されている Surrey With The Fringe On Top の構成について説明します。
ここで、この曲を構成を見てみましょう。下は The Surrey With The Fringe On Top のドラムパート譜です。実際にレコーディングの時にどのような譜面をメンバーに配っていたのか私に知る由もありませんが、下の譜面で曲の構成を提示する事はできます。
実はこの曲の本来の構成は最後の A が本当は4小節延長された、 AABA 36小節なのです。ポイントは譜面の C (曲の構成の呼び方ではラスト A)の8小節目にある "To
Coda" です。譜面の一番下の段のコーダ(丸に十時のマーク)を見てみると前回説明したキメのパターンを経てブレークに至る8小節のエンディングになっています。
実を言うとこのコーダのエンディングは原曲には無くて、バンドがアレンジして付け足した部分です。そしてこの演奏では、冒頭のテーマからエンディングを追加した構成で演奏していた訳です。それならずーっとこの構成で行くのかと思いきやそうではなかった、と言うのがこの曲でフォームが分からなくなってしまうトリック(?)の種なんです。
この曲は以下のルールで演奏されています。
- テーマはコーダへジャンプしてエンディングを演奏する。
- 各ソロの最後のコーラスはコーダへジャンプしてエンディングを演奏する。―つまり、複数コーラスソロを演奏する場合は、最後のコーラス以外はエンディングへ行かず、原曲の36小節で演奏する。―
要するに、冒頭のテーマではエンディングを演奏する。その次はマイルスがソロを1コーラスしか吹かないので、1コーラス目が最後のコーラスとなるためエンディングを演奏する。と言う事で、ここまでは2コーラス連続でエンディングが演奏されました。ところが、次のコルトレーンはソロを2コーラス吹くので、最初のコーラスではエンディングに行かずに、本来の曲のフォーム36小節の構成で演奏しています。つまり、全体の3コーラス目で初めて原曲の構成が出て来て、今まで2コーラスとは違った構成になっているのです。
―ここで余談ですが、コルトレーンの1コーラス目のラスト A の8小節目(CDでは4分50秒あたりのところ)でドラマーのフィリー・ジョー・ジョーンズがエンディングにいくフィルインをいれてしまい、ベースのポール・チェンバースもつられてキメに行きかけてしまうのはご愛嬌。歴史に名を残す偉大なプレーヤーだってこの手の間違いはたくさんあるんです(笑)―
そして、この後はコルトレーンは2コーラス目でエンディングを吹いてソロが終わります。次のレッド・ガーランドも2コーラスソロを弾くので、最初のコーラスは36小節、2コーラス目はエンディングを追加した40小節を演奏しています。
以上の様な事は、気づかずに聴いているリスナーの方が大半ではないかと思います。もちろん趣味で楽しく聴く為に、いちいちこういった事が分からなければダメだ!等と言うつもりは毛頭ありません。しかし、理解出来る様になると実際に演奏中に起きている事がより分かる様になるので、こういった事にも興味をもって聴いてると、ジャズをより楽しめるかも様になるかも知れません。
また、ドラマーの皆さんがジャズを練習して他の人とセッション出来る様になろうと考えているのなら、この辺り事は最低限理解しておきたいところです。